The  Yakuza Papers: Battles Without Honor And Humanity: Limited Edition Box Set
(仁義なき戦い / 広島死闘篇 / 代理戦争 / 頂上作戦 / 完結篇）

作品データ
リージョン：1
制作： Home Vision
映像仕様： LBX
音声仕様： Dolby Digital Mono (Japanese)
作品時間： 500分
画面比率： 2.35:1
CC： No
字幕： English

深作欣二監督作「仁義なき戦い」は、飯干晃一が広島ヤクザ抗争を記した獄中手記を基に、ヤクザとして生きる若者をドキュメンタリー・タッチで描き、任侠映画から実録ヤクザ映画への転換を決定づけた傑作シリーズだ。行き所のない怒りと衝動を抱えた当時の若者の生きざまを、群像劇で映像化したもう一つの戦後日本史でもある。津島利章によるテーマ音楽はあまりにも有名。手持ちカメラによるドキュメンタリー・タッチの映像、スピーディな展開、リアルな暴力描写。そして随所に吹き込まれた壮絶なエネルギー。まさに深作映画の真骨頂！

敗戦直後の広島県呉市。復員してきた広能昌三（菅原文太）が暴力団組員となり、山守組と土居組の抗争に巻き込まれていく第1作に続き、1950年代初期、ヤクザの世界に生きる青春像にスポットを当てた第2作「広島死闘編」、高度成長期に入った1960年代初期、広島最大の村岡組跡目相続を巡る抗争が日本最大のヤクザ組織・明石組と神和会を呼び込んで拡大していく3作目「代理戦争」、広島抗争事件が大流血を持って終焉する4作目「頂上作戦」、そして再び流血の抗争となる「完結編」の5作から成る。

日本映画の傑作の一つでありながら米国盤の発売が遅れた背景には、アメリカには受け入れがたい戦後日本の現実が描かれていたことが理由の一つだと思われる。特典のインタビューで翻訳者のリンダ・ホーグランドも話しているが、一作目の冒頭での原爆映像や、アメリカ兵が日本女性に乱魔するシーンは言うまでもなく、占領という歴史とそれに対する憤りが底辺にある「仁義なき戦い」は、アメリカ人には目をそむけたくなるようなリアリズムが存在するのだろう。

2004年末にようやく発売に至った米国盤は、「仁義の墓場」「現代やくざ　人斬り与太」などの深作作品を既にリリースしているHome Visionから登場。シリーズ5作品に加えてボーナス・ディスクの計6枚組に人物相関図とブックレットが付いたボックス・セットで一挙発売となった。各作品は単独別売りもあるが、当ボックスは見開き型デジパックに6枚を収め、特製メタルケースに収納されている。本編ディスクにはそれぞれの予告編も収録。ボーナス・ディスクには、本DVDのために特別に収録されたインタビューをテーマ別にまとめており、ヤクザ映画初心者にも分かりやすい。深作作品を知り抜いたファンならば、同監督作「県警対組織暴力」の有名な取り調べ室シーンの撮影風景や、ヤクザをアメリカ人の視点で捕らえたインタビューはかなり興味深い内容だろう。また、見開きの登場人物相関図（英文）は、同じ俳優が作品によって別人を演じるような複雑な人物関係を整理するのにはとても便利。16ページのブックレットには、日本映画研究のPatrick MaciasとTom Mesによるエッセイ（英文）、公開時のポスター写真を収録。エッセイは単なる作品紹介に留まらず、それぞれ深作作品への個人的な思いが綴られており、是非読んでみて欲しい内容である。

クオリティについては定評のあるHome Visionだが、本作品も申し分ない出来上がりだ。アナモルフィック映像の画質はこの時代の日本映画のDVD化としては破格のレベル。例えば日本盤の「広島死闘編」は低コントラストで黄みがかった映像が非常に気になり「仁義」ファンの顰蹙を買ったものだが、米国盤は逆にやや白が飛んでいる箇所やざらつきがあるものの、より高コントラストで映像全体が明るく、発色も優れている。おなじみの人名キャプションもきちんと白で出ている。また、黒ツブレもかなり解消されているため、特に「広島死闘編」のラスト部分は日本盤よりはるかに明瞭な印象が強い（弊社比較）。日本語ドルビーデジタル・モノ音声もすこぶるクリアーで全く問題ない。英語字幕はON/OFF切り替え可能。

シリーズ総括して「The Yakuza Papers」と名付けられ、遂に登場した米国盤「仁義なき戦い」。貴重映像を含んだボーナス・ディスク、価値あるブックレット類、限定数のみのシックなメタル・ケース、さらに日本盤より優れた画質と手頃な価格設定で、米国盤DVDにおいても数少ない本格的なコレクターズ・アイテムである。誰もが認める日本映画ファン必携の一本！

＊リージョンは北米向けのリージョン1限定のため要注意。

＜ボーナス・ディスク：特典映像＞

Friedkin on Fukasaku
「フレンチ・コネクション」のウィリアム・フリードキン監督へのインタビュー。小津安二郎や黒澤明のカメラワークと深作作品をわかりやすく比較。「深作は登場人物を善悪で評価しない」と言うフリードキン監督が、深作作品が1970年代にアメリカン・ニューシネマへ与えた影響をオリジナルな視点で語る。（英語音声のみ、字幕なし）

Jitsuroku: Reinventing the Yakuza Genre
映画評論家・山根貞男、東映プロデューサー・佐藤雅夫、「新・仁義なき戦い」の阪本順治監督、息子であり「バトル・ロワイアル II」の共同監督を務めた深作健太監督へのインタビュー・クリップを集めたビデオ・エッセイ。実録ヤクザ映画と任侠映画の相違を中心に語られている。（日本語音声、英語字幕）

Boryoku: Fukasaku and the Art of Violence
深作作品の沫ﾍ阜ｻを分析。監督の過去のインタビュー映像、黒沢清監督、阪本順治監督、深作健太監督、英字幕翻訳者リンダ・ホーグランドへのインタビューを含む。「県警対組織暴力」の取り調べ室のシーンの撮影現場では、監督の指示により同じシーンを何度も演じる出演者のテンションがすごい。（日本語音声、英語字幕）

Kantoku: Remembering Fukasaku
山根貞男、佐藤雅夫、深作健太監督によるおよそ20分のグループ・ディスカッション。とにかく現場を愛したという監督のエピメ[ドから、撮影秘話、監督と脚本家・笠原和夫との対立など、監督の激しさと厳しさが存分に語られている。（日本語音声、英語字幕）

Kaplan on The Yakuza
US News and World Report誌のレポーター、ディヴッド・カプラン氏が、日本社会の裏側に潜む暴力組織の誕生と変遷についてアメリカ人視聴者に向けて解説。日本を占領した側からの見解も興味深い。（英語音声のみ、字幕なし）

Translating Fukasaku
英語字幕の翻訳者であるリンダ・ホーグランドへのインタビュー。宮崎駿作品の翻訳や、黒澤明作品の新翻訳を手がけるなど、日本映画を海外に紹介する際にはなくてはならない人物である。日本で生まれ育ちながら、占領の歴史やヤクザについては知らずに生活していたという。まず日本語でセリフを感じ取ってから英語に翻訳していると話しているが、深作映画の言語を知り抜いたコメントが凝縮されている。（英語音声のみ、字幕なし）

2005/01/03