Biograph Shorts: Griffith Masterworks

＜作品データ＞
リージョン： ALL
制作： Kino
映像仕様： 4:3
音声仕様： Dolby Digital Mono (English)
作品時間： 362分
画面比率： 1.33:1
CC： No
字幕： None

「映画の父」と讃えられ、映画史に多大な影響を与えたデヴィッド・ウォーク・グリフィス監督の短編集。日本では『国民の創世』（1915年）、『イントレランス』（1916年）、『嵐の孤児』（1921年）など、後年の長篇映画が中心的にビデオ・DVD化されているため、大作の巨匠というイメージが強い。しかし彼の真価はむしろ、それ以前に撮られたおびただしい数の短篇映画にある。1908年に処女作『ドリーの冒険』から約5年間、彼がアメリカン・バイオグラフ社（American Biograph）で監督した短篇映画は、ざっと450本を超えるとされる。ここに収められているのはそのうちの23本。これだけでも6時間を超える長さだが、それでも彼の全作品の20分の1にも満たないのだから、その量産ぶりは凄まじい。

圧倒されるのは量的問題にとどまらない。ここに収められた短篇をたどれば、彼の映画があらゆる物語を網羅していることが分かる。宮廷を舞台にしたコスチューム・プレイ（『封印された部屋』）があるかと思えば、貧富の格差からくる非合理を糾弾した社会派作品がある（『小麦の買占め』、『高利貸し』）。倦怠期の夫婦の危機を描いたかと思えば（『母のような心』）、別れた恋人を思いつづける人々の純朴さを謳う（『不変の海』、『イノック・アーデン』）。その他、ギャング映画あり（『ピッグ横丁のならず者』）、西部劇あり（『エルダーブッシュ渓谷の戦い』、『大虐殺』）、強盗と少女のサスペンス映画（『見えざる敵』）もあれば、一種の海洋冒険ものといえるアドベンチャー（『小さな悪弊』）もありと、その多様さは〈グリフィスの小宇宙〉とでも呼びたくなるほど壮観だ。

以下が、2枚のディスクに収められた作品の題名である。

ディスク1
『これらのいやな帽子』Those Awful Hats (1909年、3分)
『封印された部屋』The Sealed Room (1909年、11分)
『小麦の買占め』Corner in Wheat(1909年、14分)
『不変の海』The Unchanging Sea (1910年、13分)
『彼の信頼』His Trust (1911年、14年)
『ニューヨークの帽子』The New York Hat (1912年、16分)
『見えざる敵』An Unseen Enemy (1912年、15分)
『母のような心』The Mothering Heart (1913年、23分)
『ドリーの冒険』(bonus short) The Adventures of Dollie (1908年、12分)＊
『高利貸し』(bonus short) The Usurer (1910年、18分) ＊
『イノック・アーデン』(bonus short) Enoch Arden (1911年、33分) ＊
『守銭奴の心』(bonus short) The Miser's Heart (1911年、16分) ＊

ディスク2
『ピッグ横丁のならず者』The Musketeers of Pig Alley (1912年、18分)
『強盗のジレンマ』The Burglar's Dilemma (1912年、15分)
『日光』The Sunbeam (1912年、15分)
『厚化粧の女』His Painted Lady (1912年、12分)
『かたやビジネス、かたや犯罪』One is Business, The Other Crime (1912年、15分)
『死のマラソン』Death's Marathon (1913年、15分)
『エルダーブッシュ渓谷の戦い』The Battle at Elderbush Gulch (1913年、29分)
『最後の一滴の水』(bonus short) The Last Drop of Water (1911年、13分)＊
『友達』(bonus short) Friends (1912年、13分) ＊
『小さな悪弊』(bonus short) The Lesser Evil (1912年、13分) ＊
『大虐殺』(bonus short) The Massacre (1912年、30分) ＊
(＊はBonus Filmとして収録)

クローズアップ、パラレル編集（2箇所で同時に起こっている事件を交互に見せる編集）など、グリフィスが発明した映画技法は今日の映画まで脈々と受けつがれている。このDVDを製作年代順に見ていくと、その映画技法が次第に洗練されていく過程が追えるようになっている。処女作『ドリーの冒険』のように、やや引きの構図で出来事を全体的にとらえていくというプリミティヴな段階から、クローズアップ、移動撮影などが取り組まれて、今日の映画に近い形態へと徐々に編成されていく過程は、まるで映画が生物のように成長しているような印象すら与える。

だが、グリフィス映画が今日でも鑑賞に堪えうるとすれば、技術的な発展や映画史的な意義よりもまず、作品自身の素晴らしさによるだろう。「あらすじ」では、グリフィス映画における物語の多様さを述べたが、実のところ、彼の語る物語はいくつかの単純な要素の組み合わせに過ぎない。それを一つあげるとすれば「別れと再会」の反復である。処女作『ドリーの冒険』は、裕福な家の娘ドリーがジプシーに誘拐されるが、奇跡的に生還するまでを描いたものだ。別れと再会、事件とその解決――この単純な組み合わせは、以後何度も変奏され『嵐の孤児』などの大作までつながっている。そしてこの単純さが、普遍性につながる映画的感動の源泉となっている。

グリフィス自身の映画が今でも新鮮であるもう一つの理由は、ロケーションにあると思う。もちろん、作品の大半は室内劇のように静止した空間で展開し、登場人物はしばしば大きく手を動かしながら演劇的挙動で感情を表現する。サイレント映画を初めて見る人にとって、こうした点に違和感を覚えるのは当然だろう。だが、グリフィス映画が決定的に演劇とは違うのは、カメラが屋外に置かれたときだ。カメラが外の風景をとらえるとき、途端に画面はみずみずしく息づく。これは今見ても古さを感じさせない。たとえば『不変の海』で恋人たちが抱擁するラストシーンでは、背景で輝く海の波の眩しさに目を奪われる。プリミティヴな撮影、短い上映時間。それにもかかわらず、グリフィス映画を見ることが充実した体験なのは、この光の美しさにあるのかもしれない。

グリフィスの短編集はKinoからビデオ版で全3巻で発売されたのだが、本DVDはその最初の2巻に収められた短篇に加え、DVD用に作品が改めて収録されている。＊印で付された8作品がそれぞれ"Bonus Films"として収められている。

それぞれの作品で、画質の優劣にはムラがある。『不変の海』『守銭奴の心』『大虐殺』といった作品が非常にすぐれた画質である。この時期の映画は1秒間に16コマという現在とは異なる回転速度で撮影・上映されていた（現在は24コマ／秒）。しかしこのDVDは当時の回転速度で収録されているので、動きに奇妙なぎこちなさはない。（最も画質的に悪いのは『ドリーの冒険』だが、これは冒頭に「映画史的な重要性を鑑みて収録」という断り書きがついている）。

ピアノ、ヴァイオリン、オルガンいずれかの伴奏曲がつく。既成の曲を適当につけたのではなく、基本的に展開される映像に即してつくられたオリジナル曲となっている。これは製作・発売元のキノがソフト化に際し付けたものなので、音質的には全く問題ない。