Six Feet Under: The Complete First Season (2002)
(シックス・フィート・アンダー：シーズン1）

＜作品データ＞
リージョン： 1
制作： HBO
映像仕様： 4:3
音声仕様： Dolby Digital 5.1 Surround (English)
作品時間： 780分
画面比率： 1.33:1
CC： Yes
字幕： Spanish

ロス郊外で葬儀屋を営むフィッシャー一家。久々に実家に帰省する長男ネイト(ピーター・クラウス)は、シアトルから降り立った空港で、ミステリアスで魅惑的なブレンダ(レイチェル・グリフィス)に出会う。意気投合した二人は空港の用具室で行きずりの関係を持つが、行為の最中にネイトの携帯が鳴り、出迎え途中の父(リチャード・ジェンキンス)が交通事故死した事を知らされる。
辛気臭さを嫌い家を飛び出した放蕩息子の長男ネイトとは対照的に、家業を手伝う四角四面で几帳面・ど真面目な次男デヴィッド(マイケル・ホール)は自分がゲイである事を家族に隠し続けていた。父の悲報をきっかけに無責任な兄へ不満をぶちまけるデヴィッドだったが、交際相手の黒人警官キース(マシュー・St・パトリック)が弔問に訪れたことに動揺を隠せなかった。
高校生の末娘クレア(ローレン・アンブローズ)は、不良青年に熱をあげており、父の事を知ったのは友人宅で違法薬を試している真っ最中。夫の凶報に動転したルース(フランセス・コンロイ)は、子供達の前で長年続けていた不倫を告白。良妻賢母の鏡のように思っていた母が取り乱す姿を子供達は呆然と眺めるのだった…

父親が抜けた個人経営の葬儀家業を舞台に、死と生(性)を主テーマに1話1時間形式で第1シーズンの13話を収録。各話冒頭で人が死に、その葬儀を核にして、現代アメリカの家庭、仕事、学生生活、恋愛、宗教、人生、コミュニティ、ゲイ、人種、差別、など多彩なサブプロットを自由な形式で展開。スモール・ビジネス対コーポレイト・フランチャイズまでをもプロットに織り込む懐の深さを見せる一方で、どこまでもネジれて行くネイトとブレンダ、そしてデヴィッドとキースの恋愛関係が軸となり作品全体を先へ先へと牽引する。タイトルの「シックス・フィート・アンダー」は、棺を埋める深さから死去の暗喩。

プレミアム・ケーブル局HBOで放送開始されるやいなや全米の話題をさらった超現代的家族ドラマ。そのクオリティの高さはエミーやゴールデン・グローブ賞の記録的なノミネート数でも実証済み。何かと制約の多い地上波とは異なり、タブーを恐れず過激な題材を次々とまな板に載せられるのはケーブル局ならではの強み。MPAA*のレーティングを気にせざるを得ないメジャースタジオ配給の映画作品より 2 歩 3 歩進んだアグレッシブでコンテンポラリな濃厚ドラマがぎっしり詰まった本作品、DVD で繰り返し鑑賞して美味しさをじっくりかみ締めていただきい。
「アメリカン・ビューティー」の脚本でオスカーを受賞したアラン・ベイルがシリーズ・クリエータで、彼自身が第 1 話と第 13 話の脚本・演出を担当。ゲスト監督としてあのキャシー・ベイツが演出を担当したエピソードが2話あるが(後のシリーズで出演もしている)、輪郭のはっきした技巧的な映像センスとひねくれた可笑しみを器用に演出した手腕に驚かされた。昨年「Laurel Canyon」で再度全米の評論家をうならせたアメリカ・インディ映画界のエース、リサ・チョロデンコ監督が演出した第 4 話「Familia」も必見だ。
アメリカ人の作劇なんて即物的で物質主義、明瞭無垢でハッピーなだけ、と高を括っていると、このあまりにヘビーで深淵で真面目にひねくれたブラックにユーモラスなドラマに衝撃を受けることは必至。アラン流に嫌味が効かせてあるハリウッド芸能界のグロテスクな内輪話も満載で、米国の今を知りたいという情報通のカタログ的な鑑賞にも絶える新しさを持っているが、人間の生と性、死を改めて考えさせられる真面目さとシリアスさが一番の魅力と言えよう。

*MPAA：Motion Picture Association of America、アメリカ映画協会。

第 1 シリーズ全 13 話を 4 枚のディスクに収録した本パッケージは、その作品テーマを彷彿させる重厚でダークな高級感あふれる厚手の黒箱入り。上辺をヒンジにして縦に割れるケース前面を180度跳ね上げると、中から観音開きの別箱がせり上がってくる凝ったギミックが使われており、オーナーシップの満足度はきわめて高い。近年急激に低価格化した B 級映画と比べると価格はなるほど高めだが、安物のプラスティック製クラムシェル・ケースとは一味違った気の使いように好感が持てる。
ディスク 1 には未公開シーン、タイトル・シークエンスのメーキング、ディスク 4 には出演者のインタビュー形式で綴った 20 分間のビハインド・ザ・シーンと受賞リスト、そしてトーマス・ニューマンのタイトル・テーマとそのアレンジ・バージョンの2曲の音楽トラックが収録されている。各ディスクに含まれるシリーズ・インデックスは、映像・音楽共に丁寧な仕上がりで、デザインセンスと操作性の良さとがバランスした文句の無い出来。
デジタル・キッチン**が担当したオープニングのメーキングや、ベイル監督のコメンタリは、米国TV製作界のドラマティックな舞台裏を垣間見るような極めて興味深い裏話がぎっしり詰まっていて必聴だ。

**デジタル・キッチン：映像グラフィック・デザイン会社、本シリーズのオープニング・クレジットでエミー賞を獲得。

いかにも TV 向けの、発色よりディテールを重視した解像度偏重の絵作り。しかしケーブル放送で見慣れたタイトル・シークエンスを DVD で見返すと、これほどまでに細やかな情報が詰まっていたのか、と改めて新鮮な驚きがある。映画作品の場合、スクリーンでの印象をいかに落とさずに DVDへ収録するかが問題にされるが、TV 作品は逆に DVD で本来提示されるべき画質に待遇できるわけである。死をテーマにした作品ということで光量が少なめのシーンが少なく無いが、暗い絵の中でも光の濃淡のディテールが力強く出ているのは、やはりDVD の情報量の多さのおかげかもしれない。
英語字幕はクローズド・キャプションのみで提供されており、DVD 字幕はスペイン語のみが収録されているので注意。

Dolby Digital 5.1 ch英語、Dolby Surround 英語、スペイン語モノ、フランス語モノ、の合計 4 トラック。第1話「Pilot」と第13話「Knock,Knock」にはアラン・ベイル監督のコメンタリが収録されている。オスカーノミネート常連のトーマス・ニューマンによる透明感溢れるタイトル・テーマは、小器用にミキシングされていて 5.1 ch 再生の切れの良さが堪能できる。TV 作品の DVD 化にありがちなパターンだが、5.1 ch が効果的に使われているのはタイトル・シークエンスくらいで、逆に言うと 2chドルビー・サラウンド再生でも各エピソードは十分楽しめるはずだ。