Baron Blood (1972)
(処刑男爵）

＜作品データ＞
リージョン： ALL
制作： Image
映像仕様： LBX
音声仕様： Dolby Digital Mono (English)
作品時間： 100分
画面比率： 1.85:1
CC： No
字幕： None

アメリカ人大学生ピーター（アントニオ・カンタフォラ）は、修士号を習得後、博士号過程に進む前の休暇を利用して、先祖にまつわる伝説の真偽を調べる為にオーストリアを訪れる。ウィーンに着くと早速ピーターは、叔父にして地元大学の教授カール（マッシモ・ジロッティ）に、最も悪名高い先祖オットー・ヴォン・ケイスト男爵の話題を持ち出すのだった。その熱意に動かされたカールは、ピーターに地元の女子大生エヴァ（エルケ・リマー）を紹介する。問題のオットー・ヴォン・ケイスト男爵が建てた城が間もなくオークションに掛けられる為、その事前調査の任に当たっていたエヴァは、城内で奇妙な出来事に遭遇していた関係で男爵に格別の興味を持っていたのである。こうして同じ話題を以って知り合ったピーターとエヴァは、「城の地下室で罪のない人々を拷問に掛けて殺害した挙句、若い魔女までもを焼き殺そうとしたオットー・ヴォン・ケイスト男爵は、その魔女から呪いを掛けられ、この世と地獄の間を彷徨い続けている」と云う伝説について語り合ううちに意気投合し、早速2人して問題の古城に向かう。そして、冗談半分で男爵を地上に呼び戻す効果を持つと云う呪文を唱えるのだが、この晩の試みは成功とも失敗とも云えない状態で中断となってしまう。が、翌晩に再度呪文を読み上げた際には、彼らの目の届かないところで男爵が実際に墓から起き上がってしまう。それから間もなく地元では男爵の仕業と思われる殺人事件が相次ぐが、オークションは予定通り強行され、古城は謎の富豪ベッカー（ジョセフ・コットン）によって落札される。そして、この富豪はエヴァを一目で気に入り、彼女に古城の調査を続行するように依頼する一方で、古城を男爵時代に戻すと宣言するのだった。当然のことながら、ピーターとエヴァはその宣言の裏に何かがあるのではないかと疑うのだが....

この映画の企画発案者にしてアメリカ人プロデューサーのアルフレッド・レオーネは、マリオ・バーヴァ監督に、1)ウィーン郊外のKorneuberg博物館を中心にロケを行うこと、2)エルケ・リマーを主演女優として起用すること、の2点を申し入れた。母国イタリアを離れることを極度に嫌っていたことで知られるバーヴァ監督は、当初は余り乗る気ではなかったが、雰囲気溢れる古城型のKorneuberg博物館を観るや否や態度を一転させた。要するに、元々前作『血みどろの入り江』（1971年）では少々急進し過ぎた感のあるマリオ・バーヴァは10年以上前の『血ぬられた墓標』（1960年）を思わせるゴシック・ホラーの世界に回帰する機会を待っていたのである。実際、『血みどろの入り江』のモダンなジャーロ世界に対する反発は徹底していた為に、「拷問道具の並ぶ地下室]や「青白い霧の中に見え隠れする怪人の影」と云った古典的ホラー要素で埋め尽くされた本作の雰囲気は1960年代どころか1930年代〜1950年代調のものなのだが、本作のモデル作の一つ『肉の蝋人形』（1953年）同様にヒロインが怪人
に追われる様をスリリングに描いたシークエンスは其の「ゴシック調」が最も良い形で実を結んだ名シークエンスに仕上がっている。
又、本作の出演者の中で最も注目に値するのは『血みどろの入り江』同様に後半部分で意外にも重要な役割を果たす名子役ニコレッタ・エルミだが、その彼女と同じく『血みどろの入り江』に次ぐ続投となったジャーロ映画音楽界の大物作曲家ステルビオ・チプリアーニによる印象的なテーマ曲は本作唯一の「1970年代的要素」として異彩を放っている。尚、本作の助監督はマリオ・バーヴァ自身の息子ランベルトである。

(1) Theatrical Trailer
本作の予告編。但し、収められているのは製作国であるイタリアやドイツ向けのものではなく、米国向けに米国の配給会社が制作したもの。

(2) Cast Filmgraphies
アンチ・ヒーロー役のジョセフ・コットンと、ヒロイン役のエルケ・リマーの2人の作品略歴。但し、文字通りの「略歴」であり、要するに主な出演作タイトルの羅列に過ぎない。

(3) Mario Bava Biography / Filmgraphy
本作の監督マリオ・バーヴァの略歴と作品紹介。「作品紹介」のほうは(2)とは違って原語（イタリア語）と英語の両タイトルが記してあるが、全作品のタイトルが記されているわけではない。「略歴」のほうはマリオ・バーヴァ研究家として知られるティム・ルーカスによるもので興味深い。この「略歴」によれば、マリオ・バーヴァ（1914ー1980年）は1939年に撮影監督としてデビューしたのちに、1957年にリカルド・フリーダ監督のホラー映画で共同監督デビューした。（但し、実際にはマリオ・バーヴァは1940年代にドキュメンタリー映画で一応「監督」デビューし、1955年にはマリオ・カメリーニ監督の『ユリシーズ』で共同監督デビューを果たしている。）本作『処刑男爵』はマリオ・バーヴァ混迷期の一本であり、その後の『ザ・ショック』（1977年）に至って体調を崩した彼は以前に増して息子ランベルトに仕事を任せるようになり、ダリオ・アルジェント監督の大作『インフェルノ』（1980年）に第二班監督兼視覚効果係として参加したのを最後に亡くなった。尚、マリオ・バーヴァと云う人はクレジット無しで映画制作に参加することが少なくなかった為に(実は遺作『インフェルノ』のクレジットにさえマリオ・バーヴァの名は記されていない)、その死後になって「マリオ・バーヴァ作品」の数が急増すると云う奇妙な現象も見られた。

(4) Poster and Photo Gallery
ポスターと静止画像集。これは本DVDの特典の中では最も価値のある部分である。まずは世界各国のポスターだが、この中には『BARON VAMPIRE』と云う非常に珍しい英語タイトルの付いたポスターも含まれている。又、本作の名場面を中心とした静止画像集の中にはマリオ・バーヴァその人のレア写真も含まれている。

ワイドスクリーン（比率1.85:1）収録。ノイズは散見されるが全体的に安定しており、この映画が1972年のイタリア=西ドイツ合作映画であることを考慮すれば上出来と云える。尚、字幕やCCは一切入っていない。

Dolby Digtal Monoの英語（吹き替え）音声のみ。こちらは残念ながら良好とは云えず、台詞・音楽共に弱く、特に「悲鳴」や「テーマ曲」と云った部分に関しては不明瞭になりがちだが、このDVDに収録されている音声以上のものは目下（イタリア本国でさえ）見当たらない。