A Blade In The Dark (1983)
(暗闇の殺意）

＜作品データ＞
リージョン： ALL
制作： Anchor Bay / Starz
映像仕様： LBX
音声仕様： Dolby Digital Mono (English)
作品時間： 104分
画面比率： 1.85:1
CC： No
字幕： None

若手作曲家のブルーノ（アンドレア・オッチピンティ）は、女友達にしてホラー映画監督のサンドラ（アニー・パパ）から新作用のテーマ曲作りを依頼される。そして、サンドラの知人にして不動産屋のトニー（ミケーレ・ソアヴィ）の案内で、市の郊外にある大邸宅に到着したブルーノは早速仕事に取り掛かる。
それから間もない或る晩にブルーノが市内から邸宅に戻ると、作業場の机上に置いたあった雑誌が引き裂かれており、更には録音テープに覚えのない囁き声が入っていた。内容は「リンダの秘密」に関するものらしいが、勿論ブルーノには何のことなのか見当も付かない。この穏やかならぬ事態を受けて邸宅内部の点検を始めたブルーノはリンダと云う女性のものらしい日記を発見する。と、その時、突然クローゼットから美女が飛び出してくる。カティアと名乗る美女は問題のリンダなる女性の知人だと自己紹介したものの、間もなく掛かってきた電話にブルーノが出ている最中に姿を消してしまう。ブルーノは一連の出来事を不可思議に思いながらも仕事に戻るが、実は時を同じくしてカティアは他ならぬその邸宅内で惨殺されていたのである。
それから間もなく、カティアのルームメイトであるアンジェラ（ファビオラ・トレード）がブルーノの許を訪れて、カティアの行方を尋ねるものの、そのカティアが身近で殺されたことを知らないブルーノは文字通り知らないとしか答えられなかった。そして、今度はそのアンジェラまでもが邸宅内部で惨殺されるのだが、又してもブルーノは殺人現場を見ることはなかった。しかし、そのブルーノも屋敷の中で何か恐ろしいことが起きていることには気付いていた。そして、独自に調査を開始した彼は例のリンダと云う女性が鍵を握っていると見ると同時に、今回の「事件」はサンドラの新作に関係しているらしいことも見当付ける。こうして、彼は市内にある映画スタジオに向かうのだが、映画のフィルムは引き裂かれていた。一方、そのブルーノと入れ違いに市内から屋敷に向かったサンドラは以前から精神を病んでいた友人リンダが爆発的攻撃性を発揮し始めたことを知っていた。が、そのサンドラも屋敷に足を踏み入れてから間もなく惨殺されてしまうのだった...

本作は、監督デビュー作となった『首だけの情事』(1980年)の失敗により、監督としての仕事のない状態にあったランベルト・バーヴァの許に舞い降りてきたTV映画4部門の企画が最終的には1つにまとまって劇場用映画になった作品である。この映画は『サイコ』(1960年)と云う定番モデル作からの影響に加え、ランベルトが父親マリオ・バーヴァ作品の中でも最も気に入っていると云う『呪いの館』(1966年)からの影響が見え隠れすると云う点でも興味深い作品だが、最大の特徴はランベルト・バーヴァらしからぬストレート系の残酷描写に他ならない。要するに、『首だけの情事』がバイオレンス描写の少なさ故に不評だった為に、L・バーヴァは本作を云わば反動的に過激な作品に仕上げたのであり、特にファビオラ・トレード演じる美女が洗面所でメッタ切りにされるシークエンスは、その方面で有名なルチオ・フルチ作品級の残酷シークエンスに仕上がっているのだ。
尚、この映画は「イタリアン・フィルム・コレクション」と称して日本でも限定的に劇場公開された作品の1本であるが、今回の米国盤DVDはその日本劇場公開版及び日本版VHSよりも9分ほど長い完全版であり、上記の惨殺シークエンスを始めとする重要な部分のディテール描写が克明になっていることは見逃せないポイントである。又、出演者の中で注目に値するのは主人公の恋人役のララ・ナツィンスキーと、不動産屋のミケーレ・ソアヴィである。ララ・ナツィンスキーは伝説的女優ナスターシャ・キンスキーの従姉妹であり、ルチオ・フルチ監督の怪作『怒霊界エニグマ』（1989年)でもヒロインを務めている。そのナツィンスキー以上に有名なのは『アクエリアス』（1987年)で映画監督デビューを果たすミケーレ・ソアヴィであり、本作では俳優としてだけではなく助監督としてもランベルト・バーヴァを支えている。

（1)Theatrical Trailer
これは本国イタリア版用ではなく、国際版用の予告編である。尚、この予告編は映画本編に登場する全ての殺人シークエンスを披露しているのみならず、犯人の顔までもを暴露してしまっているので、本編鑑賞前に手を付けることは避けるべきであろう。

（2)Behind the Blade
本作の監督と編集を担当したランベルト・バーヴァと、原案・脚本を担当したダルダーノ・サケッティの2人に対するインタビューであり、本作のバックグラウンドを知る上で大変参考になる。(但し、このインタビュー部分は「10分」と表記されているが、実際には約9分30秒である。） まず、この映画の製作者はミーノ・ロイとルチアーノ・マリティーノの有名コンビであるが、前者がランベルト・バーヴァに4部作から成るTV映画の制作を持ち掛け、後者がサケッティに一つの邸宅のみを主要舞台とした映画の脚本執筆を持ち掛けたのである。こうして複雑な背景を持つ本作に於いて、ランベルト・バーヴァは当時のイタリア映画界に於ける人気若手スター、アンドレア・オッチピンティがヒーロー役を引き受けてくれたことは非常に重要なポイントだったと云う。更に、バーヴァは本作の中で最も興味深いものは犯人の正体であると述べている。

(3)Talent Bios
(2)に登場した2人の略歴。「略歴」とは云えども、イタリアン・ホラーの専門家チームによるものなので内容は非常に濃い。
まずはランベルト・バーヴァであるが、「ホラー映画を撮る監督はコメディー映画を撮る監督以上に創造性を要求される」と述べたことのある彼は父親のマリオから「良いホラー映画を創る為には、観客を飛び上がらせる瞬間を最低でも4、5回は入れなければならない」と教えられたと云う。そのバーヴァの監督デビュー作『首だけの情事』は当人曰く「評論家受けは良かったが、観客受けは悪かった」。この作品の失敗によって仕事のない状態にいた彼を救い上げてくれたのはダリオ・アルジェント監督であり、要するにランベルト・バーヴァは同監督の『シャドー』(1982年)の助監督を勤めたのである。尚、このBioには書かれていないが、『暗闇の殺意』の雰囲気はその『シャドー』の雰囲気に極めて良く似ていると云う事実は注目に値しよう。尚、ランベルト・バーヴァは本作『暗闇の殺意』のあとにも『デモンズ・キラー』（1987年)を初めとするスリラー（所謂「ジャーロ」）を撮っているが、正直に云うと当人はこのジャンルが余り好きではないらしい。
次にダルダーノ・スケッティであるが、彼は「大作映画に必要なものは大金ではなく、良いアイデアである」と云う発言で知られている大物脚本家である。そのスケッティは1960年代末にダリオ・アルジェント監督に出会って、1970年には同監督の『わたしは目撃者』の共同脚本を手掛けている。そして、この作品を契機にマリオ・バーヴァ監督の『血みどろの入り江』(1971年)に参加しており、本作の監督ランベルト・バーヴァとの出会いはこの時期である。但し、このダルダーノ・スケッティと云う人は『サンゲリア』（1979年)以降のルチオ・フルチ監督作品の脚本を手掛けていることで最も知られており、当人も「フルチは自分のアイデアを最も良い形で発展させてくれた監督である」との旨を述べている。
尚、上記2人のBioにはそれぞれの手掛けた作品名を羅列した「filmography」も付いているが、多作家であるスケッティの作品はほんの一部のみの表示である。

アナモルフィック・ワイドスクリーン(比率1.85:1）。日本版VHSやオランダ版LDとは比べものにならないほど鮮明な画質であり、特に夜間や室内と云ったダーク系のシーンは良好である。逆に、昼間の野外シークエンスの一部はやや粗いようにも見えるが、全体としては驚くほど良い。尚、本編部分には一切の字幕やCCは入っていないが、インタビュー部分には英語字幕が出る。

Dolby Digitalの英語(吹き替え)モノラル音声のみ。こちらは特に良いものではなく、台詞の一部には若干の不明瞭感もあるにはあるが、全体的には良好である。この映画の最大の売りとさえ云えるグイド&マウリツィオ・デ・アンジェリスによる透明感溢れるホラー音楽も綺麗に再現されている。