Seven Blood Stained Orchids (1972)

＜作品データ＞
リージョン： 1
制作： Media Blasters
映像仕様： LBX
音声仕様： Dolby Digital Mono (English)
作品時間： 92分
画面比率： 2.35:1
CC： No
字幕： None

イタリアの首都ローマで中年女性が殺害された。その後、赤毛の娼婦イネズ・タンボリーニ(ガブリエラ・ジョルジューリ)が川岸で撲殺され、更にはイギリス出身の女性アーティスト、キャシー・アダムス(マリーナ・マルファッティ)が自宅で惨殺されるという事件が続く。
それから間もなく、母親の反対を押し切って新鋭ファッション・デザイナーのマリオ(アントニオ・サバト)と結婚したばかりの美女ジュリア(ウーシ・グラス)は、不審な電話を受けたのちに新夫と2人で乗った寝台列車のコンパートメント内で黒衣の人物に襲われて負傷する。ヴィスマラ警部(ピエル・パオロ・カッポーニ)率いる市警特捜班の初動捜査により、ジュリアは一連の殺人事件の新たな被害者になりかけたという事実が判明。しかし、特捜班による懸命な捜査にも拘らず、肝心の犯人の正体は判明する気配さえ見えてこない。

この事態を受けて、マリオとジュリアの新婚カップルは独自の捜査に乗り出し、数年前にジュリアが勤務していたリゾート・ホテルに連続殺人の発端があるらしいことを突き止める。即ち、今回の事件の被害者たちは同じ時期に同じホテルに滞在していたのである。そして、ここから今回の事件の重要参考人として1人のアメリカ人の存在が浮上してくるものの、年月の経過によりその正体を特定することは容易ではない。そこで、マリオとジュリアは同じ時期にホテルに滞在していた残りの女性たちに接触を試み始めるのだった。
しかし、犯人は2人の先を越して更なる女性殺しを繰り返し、彼らの捜査は行き詰りの様相を見始まる。しかも、犯人は着々とジュリア殺しの準備を進めており…

『狂った蜜蜂』(1969年)、『Cosi Dolce…Cosi Perversa』(1969年)、『殺意の海』(1970年)の3本を以ってイタリア製スリラー映画(所謂「ジャーロ」)の世界に入ったウンベルト・レンツィ監督は続く『ガラスの旅』(1971年)の不評を受けて、従来の惰性的戦略の練り直しを強いられた。
そこで彼が目を付けたのはアメリカ人作家コーネル・ウールリッチの小説『Rendezvous in Black』(1948年)である。(参考までに記しておくと、この『Rendezvous in Black』のストーリーは1940年代のアメリカを舞台に、5月31日に発生した事故で愛する人を奪われた人物が毎年5月31日になると復讐目的の殺人を犯していくというものである。そこに描写されている犯罪トリックそのものはいささか非現実的過ぎる嫌いがあるもの、トリック以前の独創的なアイデア構成を詩的文章で味付けすることには成功しており、今日でも国境を越えた高い評価を得ている。尚、この小説は『喪服のランデヴー』のタイトルで邦訳版も出ている。)　そして、この原作の時代と舞台設定を現代のイタリアに変更しつつも基本的な部分では内容を維持することで映画的というよりは小説的な推理ストーリーを得る一方で、小説には無い残酷描写(特にマリーザ・メル演じる女性が電動ドリルで惨殺される後半のハイライト・シーンは大きな反響を呼んだ)をも盛り込むことで、レンツィ監督は大変な好評を得ることに成功し、実際本作(原題: Sette Orchidee Macchiate Di Rosso)こそは彼の最高傑作であるという声さえも少なくはないのである。
但し、この映画はイタリア=西ドイツ合作であり、西ドイツ・サイドの要請に基づいて、一部のアイデアは相当強引な形でエドガー・ウォーレスの小説から取られたという事実は知っておくべきだろう。これは当時の西ドイツでエドガー・ウォーレスの小説を基にしたスリラー映画が人気を博していたからであり、今日のドイツでも本作のビデオは「エドガー・ウォーレスの原作に基づく映画」の1本として売られているのである。

本作のキャストに関しては最初に主演の2人について語るのが筋であろう。
マリオ役を演じるアントニオ・サバトは基本的にアクション系映画のスターであり、どちらかと云えばジャーロ系映画を苦手とする俳優である。サバトにとって本作はアルベルト・デ・マルティーノ監督の『L' Uomo Dagli Occhi Di Ghiaccio』(1971年)に次ぐジャーロ映画であるが、彼は前作同様に本作でもジャーロ映画向きの繊細な演技を成すことをせずに、むしろアクション映画向けの大味演技をしている。この意味では、アクション派のサバトを主演に抜擢したことは余り賢明な選択だったとは云えないようにも見える。
一方、ジュリア役のウーシ・グラスはイスラエル出身の人気女優であり、少なからぬイタリア映画にも出演していたとはいえども、何よりもエドガー・ウォーレスの小説を基にした一連の西ドイツ製コミック調スリラー映画のヒロイン役で知られていた。従って、彼女の出演は本作を強引にまで「エドガー・ウォーレス原作の映画」にしようとする西ドイツ側の強い要望で成されたのである。但し、ウーシは基本的にコメディー女優なので、本作ではいつになくシリアスな役を演じながらも始終微かなユーモア感を漂わせており、これはこれでユニークなジャーロ・ヒロイン像作りに成功していると評価出来る。
そして、この2人以上に注目に値するのは本作の後半部分で大きな存在感を示すに至る、オーストリア出身の実力派女優マリーザ・メルであろう。『女の秘めごと』(1969年)と『...Dopo Di Che, Uccide Il Maschio E Lo Divora』(1971年)という2本の秀作ジャーロで1人多役を好演して、ジャーロ映画界の女王の一人として君臨したマリーザは、本作でも1人で2役を熱演し、その魅力を余すことなく披露しているのである。(実際、ユーロ製スリラー映画マニアの間では「マリーザ・メルが1人数役を演じたスリラー映画にハズレは無い」という法則の存在さえ囁かれている。)

又、本作のスタッフの中で注目に値するのは作曲家兼音楽監督のリズ・オルトラーニと撮影監督のアンジェロ・ロッティの2人であろう。イタリア映画音楽界有数の実力派オルトラーニは、レンツィ監督の秀作『Cosi Dolce…Cosi Perversa』で誰よりも作品の質向上に貢献した人物であり、実際『Cosi Dolce…Cosi Perversa』という作品はオルトラーニの名テーマ曲無くして語ることは出来ない。本作に於けるオルトラーニはまさにその『Cosi Dolce…Cosi Perversa』の音楽を元にテーマ曲を作り上げており、この意味では二番煎じの感を否めないものの、それでも印象的な曲であることには変わりない。又、撮影監督のアンジェロ・ロッティはマッシモ・ダラマーノ監督の傑作『La Morte Non Ha Sesso』(1968年)でも深みのある映像作りに貢献した才人であり、映像技術的には極めて没個性的な本作の絵をプラス面で特徴付ける表情豊かな遠近感はこのロッティの存在無くして有り得ないのである。

1) INTERVIEWS

被害者役の女優ガブリエラ・ジョルジューリに対する短いインタビュー (約3分)と、監督兼共同脚色家のウンベルト・レンツィに対するやや長いインタビュー(約7分半)である。
作品冒頭の連続殺人事件に於いて登場早々に殴り殺されてしまう娼婦役を熱演したガブリエラ・ジョルジューリは本作の特殊効果担当スタッフの手腕を高く評価しており、実際にこの特殊効果は余りにもリアル過ぎたので周囲は彼女が事故にでも遭ったのかと勘違いしてしまったという裏話を披露している。又、ガブリエラは最近では専らアメリカ映画に押され気味なイタリア映画の現状を嘆いてもいる。
一方のウンベルト・レンツィ監督はコーネル・ウールリッチの大ファンであることを告白し、本作を含む自作のいくつかはウールリッチの小説に基づいていると語る。又、本作に登場する殺人シーンのうちで最も気に入っているのは(マリーザ・メル演じる双子女性の1人が電動ドリルで惨殺される有名なシーンではなく)ガブリエラ・ジョルジューリ演じる娼婦の撲殺シーンであると述べている。又、マリーザ演じる女性の殺害シーン(凶器=電動ドリル)は全く同時期に公開されたトニーノ・ヴァレリ監督作品『 Mio Caro Assassino (a.k.a.My Dear killer)』に登場する殺人シーン(凶器=電動ノコギリ)と非常に類似しているという事実に関して、レンツィ監督は「元祖はこちらにあり、真似をしたのは向こうに他ならない」との見解を示しているものの、この話は少々疑わしい。(良くも悪くもベテランであるウンベルト・レンツィ監督は極度に負けず嫌いであり、過去には「そもそもジャーロと云うジャンルそのものを創造したのは他ならぬ自分である」という旨の爆弾発言までして関係各位から失笑を買ったという客観的事実は知っておくべきだろう。)

尚、レンツィ監督に対するインタビューは色々な意味で興味深いものではあるものの、饒舌の度が過ぎて本作の犯人の正体までもを暴露してしまっているので、本編鑑賞前に手を付けることは避けるべきであろう。　

2) LINER NOTES

本作はアメリカでは劇場公開されなかった関係で比較的知名度は低い。従って、ここに本作に関する基礎的な知識を文章化して収めたのであるが、あくまでも「基礎」なので内容的には希薄であり、大部分は上記[見どころ]に記したものと被っている。

3）TRAILERS

『食人帝国』(1980年)、『スパズモ』(1974年)、そして本作(1972年)の3本の予告篇である。これらはウンベルト・レンツィ監督作品であり、従っていずれもイタリア映画であるが、ここに収められているのはイタリア本国向けのものではなく、所謂「国際版」の予告篇である。

4) ART GALLERY

本作のイタリア本国用資料のギャラリーである。数にして「10点」あるが、或る資料の一部を拡大表示した二次資料も含まれているので、「10枚」の資料が収められているわけではない。

アナモルフィック・ワイドスクリーン収録(画面比率：2.35:1)。30年以上も前の映画なので所々にノイズが散見されるものの、全体としてはシャープな絵である。但し、この映画のイタリア本国版廉価VHS(これはインタビュー時にレンツィ監督が手にしているものである)は比較的画質が良好なので、今回のDVDはそれを大きく越えるとまでは云えず、むしろ動きの激しい部分ではVHSよりも少々劣るようにさえ見える。しかし、安定感という点では抜群であり、その意味では十分鑑賞に堪えるものであると云えよう。尚、このディスクには基本的にCC(クローズト・キャプション)や字幕は入っていないものの、イタリア語で成されたインタビュー部分には英語字幕が入る。

Dolby Digitalのモノラル音声 (英語吹き替え)のみ。こちらも30年以上前の映画であるが故にソフトであり、又リズ・オルトラーニのテーマ曲を特徴付ける繊細さ故に部分的にはくぐもった感じさえも受けるものの、台詞は十分に理解可能であり、鑑賞には何ら差し支えは無いように思われる。