Venus In Furs (1969) (1969)
(ビーナスの誘惑・美しき裸身の復讐）

＜作品データ＞
リージョン： ALL
制作： Blue Underground
映像仕様： LBX
音声仕様： Dolby Digital Mono (English)
作品時間： 86分
画面比率： 1.85:1
CC： No
字幕： None

トルコのイスタンブール。トランペット演奏者のジミー・ローガン（ジェームズ・ダーレン）は、海岸でブロンド美女の死体が打ち上げられているのを発見する。その美女の名はワンダ・リード（マリア・ローム）といい、ローガンは以前にパーティーの席で彼女に会っていたことに気が付く。そのパーティーの席でワンダはプレイボーイ・タイプの貴族アーメッド・コートバウィ（クラウス・キンスキー）、画商のパーシヴァル・カップ（デニス・プライス）、そしてレズビアン写真家のオルガ（マーガレット・リー）の３人組から眼をつけられ、パーティー終了後に彼らから暴行を受けていた。ローガンは偶然にもその暴行現場を目撃していたが、当時は何もすることが出来ずにいたのである。

そして、今、ワンダの死体を眼前にしたローガンは激しい自己嫌悪に陥りながらイスタンブールを去る。その後ヨーロッパ各地を放浪した末、大西洋を越えてブラジルのリオ・デ・ジャネイロに向かった。リオ・デ・ジャネイロでガール・フレンドのリタ（バーバラ・マクナイア）に支えられながら、ローガンは長らく中断していたトランペット演奏を再開するが、時を合わせるようにして彼の眼前に現れたのは大西洋の向こうで死んだはずのワンダだった。我が目を疑いながらも、ワンダを追いかけるローガンは、やがて彼女と愛し合うようになる。しかし雲のように掴み所のない存在のワンダは、ローガンを混乱させるばかり。同じ頃、偶然にもリオ・デ・ジャネイロを訪問中のパーシヴァル・カップが急性の心臓発作を起こし、オルガも謎の自殺を遂げていた…。

1970年前後のイタリア映画界は、ジャーロと呼ばれるサスペンス映画群を大量生産していた。そして、もともと国際色の濃厚なイタリア映画界は自国の監督のみならず外国人監督にも積極的にジャーロ制作に関与する機会を提供していたのである。本作「ビーナスの誘惑・美しき裸身の復讐（原題:PAROXISMUS）」（1969年）も、イタリア映画界がスペイン人監督ジェス・フランコを招いて制作したジャーロの１本である。そして、この映画の内容をフランコ監督が望んでいた主観性の強いものから、確実に国際市場に受け入れられるような客観性を持つものに変えたのはイタリア人スタッフたちだった。この意味では本来のフランコ色は薄められたといえようが、逆に、映画は制作段階から計画的に多くの人に受け入れられやすい内容に設定されたともいえる。実際、本作こそはフランコ監督の最高傑作であるとの呼び声が高いのは、成熟したイタリア映画という枠組みの中に収まる範囲内で最大限のフランコ色を出すことに成功しているからであろう。

それでも「ビーナスの誘惑」はジャーロとして見ると相当な異色作である。内容は「推理もの」としては到底成り立たないので、本来的な意味でのジャーロとはいえず、イタリア本国でも「ホラー」の分類に入れられていることが少なくはない。これはフランコ監督が本作を最初から「空想物語」として制作したからに他ならない。つまり、この映画は単に形式的にジェームズ・ダーレン演じるトランペット演奏者によるナレーションをもって進行していくだけではなく、実際に彼の頭の中にしか存在しない世界を描いているのである。そして、この空想物語は3つの要因により比較的うまく構築されているといえる。１つはオーストリア出身の美人女優、マリア・ロームの魅力である。実際、この映画こそは彼女の魅力が最大限に発揮された１本といえよう。また、イギリスの人気バンド・グループ、マンフレッド・マンによる音楽も良い味を出しており、映画に独特の雰囲気を付与している。更には、イタリアの中堅撮影監督アンジェロ・ロッティによる画も適度な深みを持っており、好感を持てる。

その一方で、本作は「フランコ映画」であるがゆえに、ストーリーが説明不足である上に、全体的にも部分的にもテンポが悪い。もちろん、イタリア人スタッフによる「圧力」の存在があるので、他のフランコ映画に比べるとテンポは若干速いが、それでもサスペンス場面に求められる緊張感を生み出すほどのスピードとはいえない。実際、ジャーロとしての本作は連続殺人を描いているにもかかわらず、個々の殺人描写は奇妙なまでに盛り上がりに欠け、ほとんど漫画的である。しかし、このテンションの欠落、つまり一部のフランコ・ファンの言う「ゆるさ」こそはジェス・フランコ映画最大の特徴なのであるから、それを致命的な欠点と決め付けることは酷であろう。むしろ、本作はその「ゆるさ」を含めたユニークな作風をもってジャーロ映画史に異彩を放つ様を楽しみたい１本である。日本では劇場未公開、日本盤のDVDも未発売。

[特別収録]

1) Jesus in Furs

本作の監督・共同原案・共同脚本を手掛けたジェス・フランコに対するインタビュー（約20分）であり、今回収録されている特典の中では最も充実した内容を持っている。

フランコによると、元々の本作は黒人男性と白人女性の間の恋愛物語として企画されていたようである。しかし、製作者サイドが「黒人男性」と「白人女性」の組み合わせに難色を示したため、正反対の「白人男性」と「黒人女性」の組み合わせに変更を余儀なくされた上に、その異人種間恋愛自体も中心テーマではなく、サブ・プロットのレベルにまで落とされたのである（本作の主人公役のジェームズ・ダーレンもヒロイン役のマリア・ロームも白人である）。更に、フランコは本作の主人公ジミー・ローガンのモデルはチェット・ベイカーであることも明かす（ベイカーは麻薬中毒で身を滅ぼしたジャス・トランペット演奏家である）。

又、本作はイタリア=ドイツ合作映画であるが、実質的にはイタリア映画であるために、その制作プロセスもローマを中心に進行したようである。

2) Audio Interview with Star Maria Rohm

ワンダ・リード役の女優マリア・ロームに対する音声インタビュー（約11分）であり、内容に応じてスチール写真が提示される。

オーストリア出身のマリアの話は非常に広範囲に及んでいるので、ファンには嬉しい限りであろうが、逆に本作自体に関する情報は限定されている。尚、このインタビューにはジェームズ・ダーレンを良い意味で古風なアメリカ人であると評価する等、1) のフランコ監督の話と共通する内容も含まれている。

3) Theatrical Trailer

劇場用予告篇。これは制作国のイタリアやドイツ向けのものではなく、国際市場向けのものである。

4) Poster & Still Galleries

これは本作の劇場公開時に使われた資料集であり、a) Poster & Lobby Card、b) Black & White Stills, c) Color Stillsの３項目に分かれている。a) はポスター１枚とロビー・カード１枚の画像収録のみで少々寂しい。又、b) の白黒スチール集とc) のカラー・スチール集を比べてみると、本作の撮影監督アンジェロ・ロッティによる色彩感覚の鋭さを改めて実感することが出来る。　

5) DVD-ROM

VIDEO WATCHDOG誌の主催者ティム・ルーカスによるジェス・フランコの略歴。この5) を見るためにはディスクをコンピューターのDVDドライブで再生する必要がある。

アナモルフィック・ワイドスクリーン（画面比率1.85:１）収録。オープニング部分等では若干のノイズが散見されるが、全体的には製作年代を感じさせないほどクリアであり、ここでもジャンル・ファンから熱い支持を受けるBlue Underground社の力量を思い知らされる。但し、クリアであると同時にシャープとまではいえず、若干のソフト感を持つ画であることも事実ではあるが、このソフト感は映画の内容に程よく適しており、むしろ好感を持てるものであるように見える。

尚、このDVDの本編部分には字幕やCC（クローズド・キャプション）は入っていないが、特典のフランコ監督インタビューには英語字幕が入っている。

Dolby Digitalのモノラル（英語）のみ。モノラルとはいえども台詞・音楽共にクリアであり、ノイズも殆どなく、総じて上出来であると思う。