Watchmen: Director's Cut (Blu-ray) (2009)
(ウォッチメン）

＜作品データ＞
リージョン： ALL
制作： Warner
映像仕様： LBX
音声仕様： DTS HD 5.1 Surround (English), Dolby Digital 5.1 Surround (French)
作品時間： 186分
画面比率： 2.40:1
CC： Yes
字幕： English,Spanish,French

ケネディ大統領暗殺、ベトナム戦争、アポロの月面着陸など世界的大事件の陰には監視者でありヒーローである"ウォッチメン "たちの存在があった。1977年に政府によってその活動を禁止されて以来、引退してひっそりと暮らす者、密かに政府の活動を続ける者とウォッチメンたちはそれぞれの道を歩んでいた。

1985年、任期を引き延ばしたニクソン大統領が権力を握り続けているアメリカでは、ソ連との核戦争への緊張が高まっていた。ある日、ウォッチメンの一人で政府お抱えの諜報部員"コメディアン"（ジェフリー・ディーン・モーガン）が何者かに襲われ、ニューヨークの高層ビルから落下し壮絶な死を遂げる。この事件を不審に思ったマスクの男"ロールシャッハ"（ジャッキー・ アール・ヘイリー）は、フクロウをモチーフにした飛行船を操縦する"ナイトオウル"（パトリック・ウィルソン）、ウォッチメンだった母親に英才教育を受けた"シルク・スペクター"（ローリー・ジュスペクツィク）、大企業の若社長で頭脳明晰な"オジマンディアス"（マシュー・グード）ら、かつての仲間たちと接触し独自に調査を開始。しかし、捜査を進めれば進めるほどウォッチメンたちは危機に追い込まれてゆく。そして彼らのリーダー格であり、科学実験事故で超人化した故に核戦争の鍵をも握る"Dr.マンハッタン"（ビリー・クラダップ）が忽然と姿を消してしまう。
その裏には世界を揺るがす驚くべき巨大な陰謀が隠されていた…！

アラン・ムーア原作、デイヴ・ギボンズ作画によるグラフィック・ノベルを「３００＜スリーハンドレッド＞」のザック・スナイダー監督が映画化。1986年に発表された原作は、低迷していたアメコミ界に成人読者を呼び戻した傑作と位置づけられている。セックス、バイオレンス、政治といった大人向けの内容と、アメコミのヒーロー像を覆すような人間的なキャラクターが革新的であり、当時からカルト的な人気を得ながらも映画化は不可能と言われてきた。長編のため一本の映画にまとめることは困難であり、また、成人向けの内容を忠実に映画化すれば家族で楽しめるヒーロー映画としては成立しないという興行上の壁があったからだ。過去にはテリー・ギリアム監督らが映画化を試みて断念している。スナイダー監督による製作が始まった後も、映画化の権利を巡ってFOXがワーナーに対して訴訟を起こしたり、長過ぎる本編の編集問題など公開までに数々の難問があった。

重要な見どころは原作を忠実に再現した世界観。本作でのヒーローはいわゆる特殊能力を持つスーパーヒーローではなく普通の人たちがコスプレでやっている自警団だ。なかには素行が悪かったり暴力的なヒーローもいて、市民から反感を買ってついに活動を禁止される。そういったヒーローたちが現実にいたらアメリカの近代史はどうなっていたか？ということが本作の背景にあるのだが、特典映像で語られている通り、製作者たちは彼らが存在した世界作りに真面目に取り組んでいる。観る方も従来のアメコミのイメージとは一線を画したリアルなメンタリティが要求されるのだ。ところが、そのまま神懸かり的なクライマックスへと連れていかれるのだから、ちょっと言葉では表現できない不思議な体験だ。

また、原作からそのまま飛び出したようなアメコミらしい絶妙なカット、血しぶきが飛ぶ暴力シーンあり、セックスシーンありの衝撃映像は大胆そのもの。コミックを映像化する力量を今回も大いに発揮したザック・スナイダー監督だが、一方で原作を知らない視聴者には設定が分かりにくく、一度観ただけでは本当の価値を分かりえない作品であるのも事実だ。

そこで今回のディレクターズ・カット版Blu-rayの登場。予備知識なしに映画館で鑑賞した時には理解しきれなかった部分をBlu-rayでもういちど観ることで補うことが出来、何倍にも楽しめるものだった。社会背景と人間関係を再確認できたこと、また全編を通じて10箇所以上に追加シーンがあるため物語がより詳しく説明されていることが大きいだろう。Dr.マンハッタンが火星に行くまでの過程、初代ナイトオウルの死にまつわるエピソードは重要な追加部分。

米国盤はスタンダードDVDが劇場公開版（162分）フルスクリーン盤とワイドスクリーン盤、ディレクターズ・カット（186分）を収録の2枚組ディレクターズ・カット盤、同じくディレクターズ・カット収録のBlu-rayが同時発売。

Blu-rayは絵も音も最高の仕上がりで映画館で観た時と全く遜色ない印象。現実社会と照らし合わせた特典映像も意外性が強くて面白かった。

評論家の間でも映画ファンの間でも賛否両論だった作品ですべての人が楽しめるというものでは無いだろうが、こういう異色のアメコミがあることを知ったのは映画化されたお陰であり、本作がその後のアメコミや映画に与えたであろう影響を考えるとまた違った興味が湧いてくる一本だ。

特典はすべてHD収録、英語字幕あり。予想に反してヴィジュアルの製作舞台裏映像はそれほど多くは無く、単独の特典映像は作品コンセプトに重点を置いた内容。その意外性は多いに楽しめた。すべて必見。

(1) Maximum Movie Mode
ディスク#1に収録。本編を再生中に楽しめる"In-Movie Experience"と呼ばれる機能で、ポップ・アップ式のトリビア、コミック・映像比較、ザック・スナイダー監督によるピクチャー・イン・ピクチャーのコメンタリー、舞台裏映像と盛りだくさんの内容。特にトリビアで出てくる映画と現実の史実比較は物語の背景を理解するのに役立つ。ピクチャー・イン・ピクチャーの機能は映画を観ようとすれば邪魔になるかと思いきや、編集がよく出来ていて二倍に楽しめる。
全編を通して観るほどの時間の無い方は、メインメニューで"Maximum Movie Mode"を選んだ後に"Focus Points"というメニューから主要な11のセグメントだけを再生して観ることも可能（37分）。

(2) The Phenomenon: The Comic That Changed Comics (29分)
ディスク#2に収録。グラフィック・ノベル界に革新をもたらした「ウォッチメン」の背景を、原作者のデイヴ・ギボンズ、DCコミックの関係者へのインタビューを基に検証する。

(3) Real Super Heroes: Real Vigilantes (26分)
ディスク#2に収録。「ヒーローとは何か」をかつてない現実的な視点で考察した非常に面白い特典映像。ウォッチメンのようなヒーローのことを指して"Vigilante"という言葉が何度も使われているが、これは"自警団"といった意味の言葉だ。赤いベレー帽とユニフォームがトレードマークのガーディアン・エンジェルスのメンバーほか実在の"Vigilante"たちが登場し、自警団の精神と役割について語ってくれる。「ウォッチメン」が決して完全な作り話ではないことがよく分かるし、街のヒーローの存在理由を理解することは本作をより楽しむことに繋がるだろう。

(4) Mechanics: Technologies of a Fantastic World (17分)
ディスク#2に収録。ミネソタ大学でアメコミを教材とした物理学講座を持っているというユニークな物理学教授が登場。映像のリアリティを深めるため製作スタッフに物理学のレクチャーを行う。Dr.マンハッタンの能力は物理学的にあり得るのか!? 専門用語は難解だがユーモアがあって楽しい特典だ。

(5) Music Video (3分)
ディスク#2に収録。マイ・ケミカル・ロマンスの「廃墟の街」ミュージック・ビデオ。

(6) デジタル・コピー
ディスク3枚目にデジタル・コピー・ディスクが付いている。劇場公開版スタンダード映像のもの。

(7) BD-Live
ディスク#1のメニューからアクセス可能のBD-Live。2009年7月25日アメリカ西部時間午後9時30分から、10万人限定でコミコン会場で作品上映をするスナイダー監督とのチャット・イベントが企画されている。

画面比率2.40:1、1080p/VC-1エンコード。Dr.マンハッタンが放つ青い光が縞状に見えるような気がしたが、それ以外は映画館で観た時と同じ印象の高画質。原作の迫力ある黒インクを強調した映像だけに、ブラックが重要な要素を担っているが、本Blu-rayでは引き締まった深い黒がよく出ており、暗部のディテールにも優れている。シャープ度は最高レベル。肌の色味と質感は非常にナチュラルで生き生きとしている。コントラストを曖昧にしたカットとくっきりさせたカットのメリハリも効いている。フィルム感もほどよく存在。アメリカの各レビューアーが4.5ツ星から5ツ星評価をしているお墨付きの高画質だ。

字幕は英語、フランス語、スペイン語を収録。

ワーナー初の英語DTS-HDマスター・オーディオ。台詞をささやいている部分は本当に耳元でささやかれているかのように聞こえてくるクリアーな音と、サウンドフィールドの広がりに感動が走る素晴らしいサウンドトラック。派手な効果音や衝撃の大音量では無いのだが、ダイナミックレンジの広さは違いがはっきり分かり、音の方向性の確かさと効果に技術の高さが伺える。低音もポイントを外さずに効果を発揮。挿入歌が部屋中に広がる音場間も優れている。台詞はクリアーで全く問題ない。

音声はほかにフランス語5.1chを収録。