Gran Torino (Blu-ray-UK)
(グラン・トリノ）

作品データ
リージョン：ALL
制作： Warner
映像仕様： LBX
音声仕様： Dolby Digital TrueHD 5.1 (English), Dolby Digital 5.1 Surround (Spanish), Dolby Digital 5.1 Surround (Japanese)
作品時間： 117分
画面比率： 2.40:1
CC： Yes
字幕： English, Spanish, French, Portuguese, Italian, German, Danish, Dutch, Norwegian, Swedish, Finnish, Japanese, Korean, Chinese

朝鮮戦争から帰還後フォード社の工場に長年務めたウォルト（クリント・イーストウッド）は、妻を亡くし、日本車のセールスをしている息子や思春期の孫たちを嫌ってデトロイト郊外で孤独に暮らしていた。気難しく口の悪いウォルトは街の若い神父を馬鹿にして教会にも行かず、アジア系移民やチンピラのギャングたちに街が侵食されていくことに不快感を露にしていた。そんなウォルトが唯一幸せを感じるのはピカピカに磨き上げた愛車「グラン・トリノ」を眺めながら缶ビールを飲む時間だった。
ある日、隣に住むアジア系の少年タオがチンピラに脅されているのを見るに見かねて助けたことから、ウォルトはタオの母親や気さくな姉スーから感謝されるようになる。最初はタオの家族を疎ましく思うウォルトだったが、彼らモン民族はベトナム戦争が原因でアメリカに来るに至ったことを知り、また、民族の誇りと礼儀を忘れない彼らに共感を覚え始める。そして引きこもりがちなタオに何かと世話を焼くまでに親しくなってゆく。やがて、ある事件がウォルトを奮起させる…。

人種も生活も全く異なる少年に男の人生と勇気を伝えた老人の姿に、心を強く揺さぶられる重厚なドラマ「グラン・トリノ」。日本では4月末に公開されまだDVD化もされていない作品が、UK盤Blu-rayなら日本語字幕付きで観ることができるという嬉しい一本だ。しかもクリント・イーストウッド監督・主演の話題作でありこれを見逃す手はない。

本作は映画賞こそ取っていないが、アメリカでは小規模の公開から始まって口コミで徐々に観客動員数を集めていった。地味で単純なストーリーであり決して大作ではない映画をここまで見応えのあるものにしたのだからやはりイーストウッドは偉大だ。イーストウッドがしびれるほどにクール。指で銃を撃つしぐさを本気でキメているし、胸元に手を入れるだけで画面に緊張感が走ったりするのだ。

そしてイーストウッドの映画人生が伺えるような集大成とも言える意味深い作品だ。イーストウッドと言えば「ダーティハリー」のハリー・キャラハンであり、観る人の世代によってはマカロニ・ウエスタンのカウボーイだったり、近年では「ミリオンダラー・ベイビー」のフランキーあるいは「硫黄島からの手紙」の監督など、それぞれの姿を重ね合わせて味わえることだろう。どの役柄にも共通しているのは一本筋の通った男の生き方。「グラン・トリノ」のウォルトは曲がったことや女々しさを嫌う古い価値観の人間だ。ズバリ男らしさがすべて。男らしさの象徴でもある自動車を介して隣人のアジア系少年と親しくなり、自分の息子ではなく彼にアメリカの将来をも託すような心境に至る。なぜウォルトはそう決めたのかを考えていくと、いかにもイーストウッドらしい老人像だと納得する。
そして男泣きを誘うラストシーンはイーストウッドのファンに末長く語り継がれるだろう。本作で俳優引退も示唆しており、もしかしたらイーストウッドをスクリーンで観ることはもう無いのかもしれない。そうなるとこのBlu-rayは特に貴重なものになる。

1080p/VC- 1エンコード、画面比率2.40:1の画質は一点の曇りもない高画質。室内や曇った屋外、夜のシーンがほとんどであり高画質を強く印象づけるカットは少ないものの、リアリズムの映像作りを忠実に再現。暗部も多いが黒が締まっていてディテールも良好。良い映画は少しでも奇麗な絵で観たいという欲求を十分に満たしてくれる。特に人物の表情は細やかに出ているので、イーストウッドが少年を見つめるまなざしの奥にある感情をBlu-rayの鮮明な映像で捕えて欲しい。

英語ドルビーTrueHD5.1chの音声の方もとても優れたクオリティだが、イーストウッドの声がまた年を取ったと感じさせられた。これほどクリアーな音でも、あのハスキーな声はアメリカ人も聞き取り難いところがあるほどで英語が母国語ではない者にはかなりつらい。労働者階級のスラングも多いので、2回目の鑑賞は英語字幕を表示させてセリフの一言一句まで読み取ることがお勧めだ。音楽も効果音も最低限に用いられておりBlu-rayの本領を発揮しきっていないが、車の移動音と銃声が響くシーンではサラウンドが効いており、バックグラウンドの街の雑音がリアルな音響空間を作る。また日本語ドルビーデジタル5.1ch音声も収録。

なお本Blu-rayはジャケット裏の仕様欄に日本語の記載は無いが、ディスクを再生すると警告画面から日本語表記になる。日本語を表示するにはBlu-rayプレーヤー等の再生機器の初期言語設定が日本語になっている必要があるが、日本国内で一般的に販売されている機器ならば特に設定変更の必要はない。メインメニューが表示されずそのまま本編の再生が始まるので音声や字幕の設定はリモコンの「POPUP MENU」から行うこと。この状態では英語音声/字幕、日本語音声/字幕のみ選択が可能だが、プレーヤーの初期言語設定を英語に変更して再生すると、スペイン語やフランス語の選択が可能。
UK盤だがリージョンはオールなのでリージョンの点も問題はない。

すべてのイーストウッド・ファンと、男性映画ファンに是非お勧めしたい一本。


＜特典映像＞

簡単な内容のものだがすべてHD収録の特典映像3つ、BD-Live、デジタル・コピー用のコード番号が付いている。

(1) イーストウッドの世界 〜巨匠の仕事に迫る〜 (19分)
ウォルト役を演じたイーストウッドの感想、主要キャスト・スタッフへのインタビュー、モン民族キャスティングの苦労話、オーディション映像、撮影風景などを収録したメイキング。

(2) グラン・トリノが映すアメリカ文化 (9分)
監督やスタッフらが初めて持った車についてのコメントを通じて男にとって車とは何かを探るインタビュー映像。

(3) こだわりのヴィンテージ・カー (4分）
デトロイトでのビンテージ・カーのイベント参加者に車の思い出について聞いたインタビュー映像。

(4) BD-Live
ネット接続が可能なBD-Live対応の機器でアクセスし、まずレジストレーションをする必要がある。現時点では、"Next Door"と題された新出のメイキング映像（16分) 、本作のミュージックビデオ、本作ほかワーナーのDVD/Blu-ray予告を観ることができる。

(5) デジタル・コピー用のコード番号

2009/07/07